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山形地方裁判所米沢支部 昭和62年(ワ)24号 判決

原告

佐藤茂

黒澤源一

原告ら訴訟代理人弁護士

高橋一郎

被告

米沢市農業協同組合

右代表者理事

高橋源太郎

右訴訟代理人弁護士

古澤茂堂

大江修司

被告

株式会社荘内銀行

右代表者代表取締役

笹原信一郎

右訴訟代理人弁護士

高山克英

被告

新藤憲一

右訴訟代理人弁護士

設楽作巳

主文

一  被告米沢市農業協同組合は、原告らに対し、それぞれ金八一二万七七九〇円を支払え。

二  原告らの右被告に対するその余の各請求及び被告株式会社荘内銀行に対する各請求をいずれも棄却する。

三  原告佐藤茂の被告新藤憲一に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の六分の一及び被告米沢市農業協同組合に生じた費用をいずれも同被告の負担とし、原告らに生じたその余の費用及び被告株式会社荘内銀行に生じた費用をいずれも原告らの負担とし、被告新藤憲一に生じた費用を原告佐藤茂の負担とする。

五  この判決は、右一に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告米沢市農業協同組合(以下「被告農協」という。)及び同株式会社荘内銀行(以下「被告銀行」という。)はそれぞれ、原告ら各自に対し、金一八五三万円及びこれに対する昭和五八年一一月一日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告新藤憲一(以下「被告新藤」という。)は、原告佐藤茂(以下「原告佐藤」という。)に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  右1及び2について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告農協及び同銀行の答弁

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告新藤の答弁

1  主文三と同旨

2  訴訟費用は原告佐藤の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  主債務の成立

(一) 日新火災海上保険株式会社からの借入

株式会社福島モータースクール(以下「訴外会社」という。)は、日新火災海上保険株式会社(以下「日新火災」という。)から、昭和五六年二月二四日、三五〇〇万円を、利息年8.7パーセント、遅延損害金年一五パーセントとそれぞれ定めて借り受けた。

(二) 中小企業金融公庫からの借入

訴外会社は、中小企業金融公庫(以下「金融公庫」という。)から、同年三月一一日、三〇〇〇万円を、利息年8.8パーセント、遅延損害金年14.5パーセント(後に年一五パーセントに変更された。)とそれぞれ定めて借り受けた。

2  被告銀行の保証契約

被告銀行は、日新火災及び金融公庫に対し、それぞれ、昭和五六年二月二四日及び三月一一日、訴外会社の右各契約(以下「本件各借入」という。)に基づく債務(以下「本件各借入金債務」という。)の履行を保証する旨を約した。

3  被告新藤の担保設定

(一) 被告銀行への根抵当権設定

被告新藤は、被告銀行に対し、同年二月二四日、いずれも前同市大字梓川字道下所在の次の各土地(以下「本件各土地」という。)について、極度額を四三七五万円、被担保債権の範囲を銀行取引並びに手形及び小切手債権とする根抵当権を設定する旨を約した。

(1) 三九一番一

田 二〇二六平方メートル

(2) 同  番二

田 二二〇七平方メートル

(3) 同  番三

田   四五平方メートル

(4) 同  番四

田  八八七平方メートル

(5) 同  番五

田  八一二平方メートル

(6) 四六四番

田  四九五平方メートル

(7) 四七八番一

田  九一四平方メートル

(8) 同  番二

田 三〇六五平方メートル

(9) 同  番三

田 三〇六五平方メートル

(10) 同  番四

田 三〇六四平方メートル

(11) 四八〇番一

田   二五平方メートル

(12) 同  番二

田 一三八六平方メートル

(13) 同  番三

田   五〇平方メートル

(14) 四九四番一

田 二六一〇平方メートル

(15) 四九七番

畑   七八平方メートル

(二) 金融公庫への抵当権設定

被告新藤は、金融公庫に対し、同年三月一一日、訴外会社の右1(二)の債務の履行を担保するため、右各土地について抵当権を設定する旨を約した。

4  原告ら及び被告新藤等の保証契約

原告ら及び被告新藤並びに木村富雄(以下「木村」という。)は、いずれも、被告銀行に対し、それぞれ、同年二月二四日及び三月一一日、右2の同被告の日新火災及び金融公庫への保証契約に基づく訴外会社の同被告に対する各求償債務(以下「本件各求償債務」という。)の履行を連帯して保証する旨を約した(以下「本件各保証契約」といい、これらの契約に基づく債務を「本件各保証債務」という。)。

5  原告らと被告新藤の求償に関する特約

原告らと被告新藤は、同年一月八日、本件各保証契約に関し、本件各求償債務については被告新藤が最終的な責任を負担するものとし、原告らはいずれもこれを負担しない旨を合意した(以下「求償に関する本件特約」という。)。

6  被告銀行の代位弁済

被告銀行は、日新火災及び金融公庫に対し、昭和五九年八月一九日及びそのころ、右2の保証契約に基づき、本件各借入金債務の全額を訴外会社に代わって履行した。

7  被告銀行の被告農協に対する本件各土地の任意売却の依頼

被告銀行は、右の代位弁済による訴外会社からの求償金を本件各土地の任意売却によって回収することとし、同土地について元本極度額合計一〇〇〇万円の根抵当権を有し、かつ、被告新藤から同土地の処分に関する一切の権限を委任されていた被告農協に対し、昭和五八年二月ころ、右任意売却を依頼し、同被告はこれに応じることとなった。

8  被告農協の責任

(一) 被告農協職員の不法行為

(1) 詐欺による担保権の解除

右任意売却を担当していた被告農協の戸田良一金融課長(以下「戸田課長」という。)及びその上司である小坂利作金融部長(以下「小坂部長」という。)は、同被告の同新藤に対する貸付金一九八四万円の全額回収を図るため、同年九月中旬ころ、実際には、本件各土地のうち(1)、(4)、(6)ないし(9)及び(11)ないし(13)の各土地(合計一万一九一三平方メートル、以下「第一回売買対象地」という。)並びに本件各土地以外の右同所所在四七九番の田(六九三平方メートル、以下「四七九番の土地」という。)の総計一万二六〇六平方メートルの土地について、財団法人山形県農地管理公社(以下「農地公社」という。)(更にその転売先である実質的な買主は鈴木正(以下「鈴木」という。)及び安部進(以下「安部」という。))に対し、代金総額三一五一万五〇〇〇円(第一回売買対象地の代金相当額は二九七八万二五〇〇円)で任意売却することが確実に可能であり、更に、右土地以外の本件各土地についても反当り二五〇ないし三〇〇万円での任意売却が十分に可能であることを予測していたにも拘らず、これを秘し、被告銀行の担当者であった藤浪通陽福島支店次長(以下「藤浪次長」という。)に対し、本件各土地の任意売却による価格は反当り一五〇ないし一八〇万円前後にしかならないとし、同土地全部の右価格が最高でも三五〇〇万円に止まるため、右被告に対しては、被告農協の先順位の根抵当権の元本極度額一〇〇〇万円を控除した二五〇〇万円を分配するのが精一杯である旨を告げ、右次長をその旨誤信させ、同月下旬ころ、右二五〇〇万円に被告農協の譲歩分として五〇万円を加えた二五五〇万円の代償金を同被告から被告銀行に支払うのと引換に、同被告に、右土地全部について、同被告の右3(一)の根抵当権及び同被告が右6の弁済によって代位した金融公庫の右3(二)の抵当権(以下合わせて「本件各担保権」という。)を解除する旨の合意を成立させ、同年一〇月三一日、同被告にその各設定登記を抹消させた。

(2) 公序良俗又は信義則違反

仮に、戸田課長の藤浪次長に対する右(1)の言辞が詐欺に該当しないとしても、それは、商慣習上許容される駆引の範囲を著しく逸脱した公序良俗又は信義則に反する違法な行為というべきである。

(二) 被告農協の使用者責任

戸田課長の右(一)(1)の行為は、同人が被告農協の事業の執行について行ったものである。

9  被告銀行の責任

(一) 保証契約上の義務違反

(1) 被告銀行の保証契約上の義務

被告銀行は、次の各事実に基づき、本件各保証契約上、原告らに現実に保証債務の履行を求める事態が生じないよう最善の注意を払って本件各土地の処分を行うべき義務を負担していた。

ア 求償に関する特約等の認識

被告銀行の担当者は、求償に関する本件特約又は被告新藤が本件各借入金債務に関する実質的な債務者であることを認識していた。

イ 権利行使の方法に関する特約

① 明示の合意

本件各保証契約締結当時の被告銀行の担当者であった奥山福島支店長(以下「奥山支店長」という。)は、原告らに対し、原告らの右各契約及び原告黒澤源一(以下「原告黒澤」という。)のした被告銀行に対する物上保証契約に際し、訴外会社に対する求償金の回収は、まず本件各土地の、次いで同社の所有地等に係る担保権の実行によって行い、その結果、右求償金の全額が回収できない場合に限り、原告らに保証債務の履行を求めるか、または、原告黒澤が担保として提供した不動産を処分する旨を約した。

② 黙示の合意

被告新藤が訴外会社の代表取締役として経営の中心人物であり、原告黒澤の右の担保提供の申出が、右被告の本件各土地及び訴外会社の所有地等に係る担保提供の申出より遅く、これらに対して補充的なものであり、かつ、本件各借入の後に行われたものであるので、右支店長と原告らとの間に、原告黒澤の右物上保証契約及び原告らの右保証契約に際し、黙示に右①と同旨の合意が成立した。

ウ 本件各土地の評価

奥山支店長等の被告銀行の担当者は、右2の保証契約及び本件各保証契約の締結に際し、本件各土地の価値を少なくとも四五〇〇万円であると評価していた。

(2) 被告銀行職員の義務違反

被告銀行は、原告らに対し、右(1)のとおりの右各契約上の義務を負担していたにも拘らず、同契約に関する同被告の履行補助者であった藤浪次長は、右8(一)(1)の被告農協の戸田課長からの本件各担保権の解除の申入に対し、同被告による任意売却の対象地の範囲、買主及び売却代金の確認もせず、原告らばかりか、訴外会社の解散後にその清算人に選任された平井和夫弁護士の了承及び同意を得ることなく、右課長の申入を相当なものと軽信した過失により、右8(一)(1)のとおり、右被告が、右土地の総面積の約六割に止まる第一回売買対象地だけで二九七八万二五〇〇円相当の代金で売却するなど本件各土地を高額で任意売却できることがほぼ確実であったにも拘らず、右(1)ウの評価額を大幅に下回る二五五〇万円という異常な低額の代償金の受領と引換に右担保権の解除に応じた。

(二) 担保保存義務違反

被告銀行の担当者としてその履行補助者の地位にあった藤浪次長は、右(一)(2)のとおりの経過で、被告農協の戸田課長の申入を相当なものと軽信した過失により、本件各土地の実際の担保価値を大幅に下回る二五五〇万円の代償金の受領と引換に本件各担保権を解除した。

(三) 不法行為責任

(1) 被告銀行職員の不法行為

右(一)(2)に記載のとおり

(2) 被告銀行の使用者責任

藤浪次長の右(1)の行為は、同人が被告銀行の事業の執行について行ったものである。

10  原告らの損害

(一) 損害及びその額

(1) 本件各保証債務の残額

被告銀行は、訴外会社に対する求償金について、同社所有地に係る根抵当権の実行等の原告ら以外の出捐により、その一部の回収を行ったが、なお、原告らは、同被告に対し、次のとおりの本件各保証債務の残額を連帯負担している。

ア 訴外会社の日新火災からの借入分

① 元金 九〇九万八〇一四円

② 遅延損害金 一二七三万八一七六円(元金二四一〇万二八二二円に対する昭和五八年一二月八日から昭和六二年六月一六日まで年一五パーセントの割合によるもの)

③ 遅延損害金 一九万〇七八五円(元金九一〇万二八二二円に対する同月一七日から同年八月六日まで右同率によるもの)

④ 右①の元金に対する同月七日から支払ずみまで右同率の遅延損害金

イ 訴外会社の金融公庫からの借入分

① 元金 九七万六七四〇円

② 右元金に対する昭和五九年二月二日から支払ずみまで右同率の遅延損害金

(2) 訴外会社及び被告新藤の無資力

訴外会社及び被告新藤は、いずれも現時点において、価値ある資産を有しない。

(3) 原告らの損害額

第一回売買対象地及び四七九番の土地が昭和五八年一二月二〇日に農地公社に対して代金三一五一万五〇〇〇円(反当たり二四七万円、第一回売買対象地については二九七八万二五〇〇円相当)で売却されたほか、本件各土地中の(2)、(3)、(5)及び(10)の各土地(合計六一二八平方メートル、以下「第二回売買対象地」という。)は、昭和五九年二月に佐藤隆一(以下「隆一」という。)に対して一八〇〇万円(反当たり三〇〇万円)で売却され、更に、本件各土地中の残る(14)及び(15)の各土地(合計二六八八平方メートル)の時価も、第一回売買対象地と同様の反当たり二四七万円の六五七万円を下ることはないので、被告農協は、戸田課長の右不法行為により、本件各土地及び四七九番の土地の右時価の合計から、本件各担保権に優先する同被告の根抵当権の元本極度額の合計一〇〇〇万円及び右代償金二五五〇万円の合計三五五〇万円を控除した金額に相当する分を不法に利得したものであり、その結果、本件各求償債務及び本件各保証債務の残額が同金額分増加したことにより、原告らは少なくとも一八五三万円及びこれに対する右8(一)及び9記載の各不法行為又は債務不履行の後である昭和五八年一一月一日から支払ずみまで被告銀行が代位した本件各借入金債務における遅延損害金の約定利率である年一五パーセントの割合による金員に相当する損害を被った。

(二) 被告農協及び同銀行の損害賠償義務

(1) 被告農協について

被告農協は、次のとおりの各事実により、原告らに生じた右(一)(3)記載の損害を賠償する義務がある。

ア 本件各保証債務に対する認識

被告農協の担当者であった戸田課長は、右8(一)の不法行為当時、原告らが被告銀行に対して本件各保証債務を負担していることを知っていたので、右任意売却によって同被告の受領する代償金が低額となれば、原告らの右債務の負担がその分増大することを認識していた。

イ 被告新藤の代理人としての地位

被告農協は、同新藤から、右7のとおり、右当時、右土地の任意売却並びにその代金の被告銀行及び被告農協に対する弁済への充当に関する一切の権限を委任されていたものであるから、被告新藤自身の求償に関する本件特約を知っていたものとみなされるべきである。

(2) 被告銀行の損害賠償義務

被告銀行は、右9のとおり、藤浪次長が安易かつ軽率に戸田課長の要請に応じ、本件各担保権を解除したものであり、その結果、原告らに右(一)(3)記載の損害を与えたものであるから、右9記載の各責任により、被告農協とともに同損害を賠償する義務がある。

11  被告新藤に対する求償権

原告佐藤は、被告銀行に対し、昭和五六年八月一日、自己の本件保証債務の内一〇〇〇万円を弁済した。

よって、原告らは、被告農協に対しては、戸田課長の右不法行為の使用者責任による、被告銀行に対しては、第一次的に本件各保証契約上の義務違反の債務不履行(不完全履行)による、第二次的に本件各担保権の担保保存義務違反による、第三次的に藤浪次長の右の不法行為の使用者責任による各損害賠償請求権に基づき、連帯債権として、被告農協及び同銀行の各自につき、損害金である一八五三万円及びこれに対する右各不法行為又は債務不履行等の後である昭和五八年一一月一日から支払ずみまで被告銀行が代位した本件各借入金債務における遅延損害金の約定利率である年一五パーセントの割合による金員の各支払を求め、原告佐藤は、被告新藤に対し、求償に関する本件特約に基づき、求償金一〇〇〇万円及びこれに対する同被告への訴状送達の日の翌日である平成元年三月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告農協の認否

1  請求原因1ないし6の各事実はいずれも知らない。

2  同7の事実中、被告農協が、本件各土地について元本極度額合計一〇〇〇万円の根抵当権を有し、かつ、被告新藤から同土地の処分に関する権限を委任されていたことは認めるが、その余は知らない。

3  同8について

(一) 同8(一)(1)の事実中、右土地の任意売却を担当していた戸田課長が、藤浪次長に対し、昭和五八年九月中旬ころ、同土地の価値を約三五〇〇万円と評価したうえ、本件各担保権に優先する被告農協の根抵当権の元本極度額一〇〇〇万円を控除した二五〇〇万円を被告銀行に分配したい旨を申し入れ、同月下旬ころ、右課長と右次長の間において、同金額に被告農協の譲歩分として五〇万円を加えた二五五〇万円の代償金の同被告から同銀行への支払と引換に、同被告に、右土地全部について、右担保権を解除する旨の合意が成立し、同被告が、同年一〇月三一日、その各設定登記を抹消したことは認めるが、その余は否認する。

(二) 同(2)の主張は争う。

(三) 同(二)の事実は認める。

4  同10について

(一) 同10(一)(1)及び(2)の各事実はいずれも知らない。

(二) 同(3)の事実中、第一回売買対象地及び四七九番の土地が昭和五八年一二月二〇日に農地公社に対して代金三一五一万五〇〇〇円で売却されたこと及び第二回売買対象地が佐藤隆一(以下「隆一」という。)に対して代金一八〇〇万円で売却されたことはいずれも認めるが、その余は知らない。

なお、被告新藤は、隆一に対し、同月三〇日、右土地を右代金額で売り渡す旨の合意をした。

(三) 同(二)(1)の事実はいずれも否認し、主張は争う。

三  被告農協の主張

1  被告銀行職員との十分な協議

(一) 交渉の経過

被告農協の担当者は、藤浪次長と次のとおりの交渉を行った。

(1) 戸田課長の前任者である内山敏金融課長(以下「内山課長」という。)は、右次長に対し、昭和五八年二月、本件各土地を任意売却することにより、右被告及び同銀行の各債権を回収することを提案したところ、同次長は、同年三月までに、本件各担保権の解除の代償金として三〇〇〇万円の支払を要求し、右課長は同金額が高すぎるとして、右両者の折衝はそれ以上進展しなかった。

(2) 戸田課長及び小坂部長は、右次長と同年九月半ばころから右の交渉を再開し、右土地を競売手続に付した場合、反当り一五〇ないし一八〇万円の価格となるため、同土地の総額は三五〇〇万円程度である旨を説明し、被告農協の優先する根抵当権の元本極度額一〇〇〇万円を控除し、右代償金を二五〇〇万円としたい旨を提案したところ、右次長は、被告銀行の米沢支店との協議及び本部の融資部管理課の決裁を得て、同月下旬ころ、同金額に五〇万円を加えた二五五〇万円をもって右代償金としたい旨を右課長らに回答し、同人らがこれを了承し、右被告らの間にその旨の合意が成立した。

(二) 詐欺行為の不存在

被告農協は、右土地の売却前に被告銀行に右代償金を立替払するものであるから、そのために金利を負担するうえからも、同土地が右の三五〇〇万円以上の価格で売却されるべきことはむしろ当然であり、また、被告銀行は、後順位の担保権者であることから、競売手続による配当額には不安があり、双方における十分な検討及び右(一)のとおりの交渉を経て右合意が成立したものであり、右課長らの欺罔行為及び右次長の錯誤はいずれも存在しない。

2  被告農協職員の行為の許容性

右1(一)の交渉の経過で戸田課長らの駆引が行われたとしても、それは、同(二)記載の右被告ら双方の事情に照らし、取引上許される範囲を逸脱しないもので、違法性を有しない。

3  本件各土地の売却の経過

(一) 第一回売買対象地等について

農地公社に売却された第一回売買対象地及び四七九番の土地の代金額は、同公社の「農地保有合理化促進事業等実施規程」(以下「実施規程」という。)に基づき、同公社において公正かつ公平に決定されたものであり、被告農協がその決定に関与する余地はない。

(二) 第二回売買対象地について

隆一に売却された第二回売買対象地については、同人が租税負担の対策のために時価より若干高額な代金額が決定されたものであり、それは、被告銀行との右合意の後に、被告農協の同新藤に対する適切な助言により、結果的に生じた事態である。

四  被告農協の主張に対する認否

1  被告農協の主張1について

(一) 被告農協の主張1(一)(1)の事実は認める。

(二) 同(2)の事実中、戸田課長及び小坂部長の説明に係る本件各土地の価格が競売手続に付された場合のものであることは否認するが、その余は認める。

(三) 同(二)の事実は否認し、主張は争う。

2  同2の事実は否認し、主張は争う。

3  同3について

(一) 同3(一)の事実中、第一回売買対象地の代金額が実施規程に基づいて決定されたことは認めるが、その余は知らない。

(二) 同(二)の事実は否認する。

五  請求原因に対する被告銀行の認否

1  請求原因1ないし4の各事実はいずれも認める。

2  同5の事実は知らない。

3  同6の事実は認める。

4  同7の事実中、被告農協が本件各土地の一部について約一〇〇〇万円の担保権を有していたことは認めるが、被告銀行が同農協に対して同土地の任意売却を依頼したことは否認し、同被告が、同新藤から同土地の処分に関する一切の権限を委任されており、同土地の任意売却を行うこととなったことは知らない。

5  同9について

(一) 同9(一)(1)の冒頭の主張は争い、同アないしウの各事実は否認する。

(二) 同(2)並びに同(二)及び(三)(1)の各事実中、被告銀行の担当者であった藤浪次長が、被告農協の担当者であった戸田課長の申入により、昭和五八年一〇月二八日、二五五〇万円の代償金の受領と引換に本件各担保権の解除に応じたことは認めるが、その余は否認する。

なお、奥山支店長が原告らに対して同(一)(1)イ記載の合意をしたことがない以上、藤浪次長が右担保権の解除について原告らの了承を得るべき義務は存しない。

6  同10(一)(2)の事実は認めるが、同(3)の事実は知らず、同(二)(2)の主張は争う。

六  被告銀行の抗弁

1  被告銀行職員の無過失

藤浪次長は、本件各土地の担保価値を二〇〇〇万円以下と評価していたものであり、戸田課長の申入に係る二五五〇万円の代償金について、被告銀行米沢支店の職員とも協議し、概ね妥当な金額と判断したものであり、同次長のした本件各担保権の解除には過失はない。

2  担保保存義務免除の特約

原告らは、被告銀行に対し、本件各保証契約の締結に際し、同被告がその都合によって担保又はその他の保証を変更又は解除しても免責を主張しない旨を約した(以下「本件免除特約」という)。

3  原告らの損害の未発生

原告らは、被告銀行に対する本件各保証債務を履行していないので、その損害は未だ発生していない。

七  被告銀行の抗弁に対する認否

1  被告銀行の抗弁1の事実中、藤浪次長が戸田課長の申入に係る右代償金額について同被告米沢支店の職員と協議して概ね妥当な金額と判断したことは認めるが、その余は否認し、主張は争う。

2  同2の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

八  被告銀行に対する再抗弁

本件免除特約の主張の不当性

請求原因9(一)(1)記載の各事実の認められる本件においては、右次長のした右担保権の解除は重大な過失に基づくものであり、被告銀行が本件免除特約の効力を主張することは、信義則に反し、権利の濫用である。

九  再抗弁に対する被告銀行の認否

再抗弁の事実に対する被告銀行の認否及び反論は右五5に記載のとおりであり、その主張は争う。

一〇  請求原因に対する被告新藤の認否

1  請求原因1、2及び4の各事実はいずれも認める。

2  同5の事実は否認する。

3  同11の事実は知らない。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一被告銀行に対する各請求について

一原告らの法的地位

1  請求原因1ないし4について

請求原因1(主債務の成立)、2(被告銀行の保証契約)、3(被告新藤の担保設定)及び4(原告ら及び同被告等の保証契約)の各事実は、いずれも原告らと被告銀行との間(以下、第一において「当事者間」という。)において争いがない。

2  請求原因5(原告らと被告新藤の求償に関する特約)について

(一) 訴外会社の設立の経緯

被告本人尋問の結果としての効力を有するものと解するべき証人新藤憲一(以下「証人新藤」という。)の証言によっていずれも原本の存在及びその真正な成立が認められる〈書証番号略〉(同意書の写)、〈書証番号略〉(事業目論見書の写)、〈書証番号略〉(「株主及株式構成」などと題する書面)及び〈書証番号略〉(訴外会社の定款の一部)、〈書証番号略〉(商業登記謄本)、〈書証番号略〉(株主名簿)並びに右証人新藤、証人舟山芳朗(以下「証人舟山」という。)、高橋守市(以下「証人高橋」という。)の各証言及び右原告(第一、二回)、原告黒澤の各本人尋問の結果を総合すると、被告新藤は、昭和五四年二月ころ、福島市内における自動車教習所の開設及び経営を企図し、その後、そのための会社の設立及び資金の調達等に関する助言及び協力を原告佐藤に求めるとともに、自ら中心となって右会社に対する出資者の募集及び用地の取得等の準備を整えたうえ、出資金総額二七五〇万円のうち、自らが三二〇万円を負担し、原告佐藤他六名に三〇〇万円の出資を求めるなどして、昭和五四年四月四日に訴外会社を設立し、それと同時に、自らが代表取締役社長に就任し、他に常勤の常務取締役として舟山芳朗及び高橋守市が選任されたが、原告佐藤は、非常勤かつ無報酬の専務取締役として、主として銀行借入等の資金調達について同社を側面から援助する役割を担当するに止まったことが認められ、この認定に反する特段の証拠はない。

(二) 本件各借入の経過

〈書証番号略〉(本件各土地の登記簿謄本)、〈書証番号略〉(借入金申込書)、〈書証番号略〉(支払承諾依頼書)、〈書証番号略〉(銀行取引約定書)、〈書証番号略〉(支払承諾約定書〉、〈書証番号略〉(いずれも回答書)、〈書証番号略〉(根抵当権設定契約証書)、〈書証番号略〉(金銭消費貸借契約証書)、〈書証番号略〉(根抵当権設定契約証書(追加設定用))及び〈書証番号略〉(訴外会社及び原告黒澤の各所有不動産の登記簿謄本)並びに右証人新藤、証人藤浪通陽(以下「証人藤浪」いう。)、舟山、高橋の各証言及び原告佐藤(第一、二回)、同黒澤の各本人尋問の結果を総合すると、被告新藤は、訴外会社の経営する自動車学校の校舎の建設、練習コースの整備及び練習用自動車を初めとする諸物品の購入等の資金を金融機関からの借入によって賄うこととし、原告佐藤の助言によって被告銀行を窓口として、合計六五〇〇万円の借入を受けることとしたが、同被告の担当者であった加藤明福島支店次長に対し、その物的担保として、自己所有の本件各土地及び訴外会社が右教習所の用地として取得した土地についての地上権等の提供を申し出たところ、右次長に、それらだけでは担保価値が万全とはいえないとして、福島市内の不動産を担保として追加するように求められたため、原告佐藤と協議した結果、同原告の所有する同市内の共同住宅二棟及び同黒澤の所有するその敷地を担保として追加して提供することになり、同原告の承諾を得て、その旨を右次長に申し出て了承され、被告新藤及び原告ら並びに訴外会社の取締役である木村の連帯保証も加え、最終的には、被告銀行の都合により、右共同住宅等に代えて、原告黒澤所有の共同住宅二棟及びその敷地を追加して担保に提供したうえで、訴外会社が本件各借入を受けた(なお、訴外会社の右教習所用地の一部に係る根抵当権の設定契約は、その地上権の設定等を待って、同借入の後である昭和五六年一一月三〇日に正式に締結された。)ことが認められ、この認定に反する特段の証拠はない。

(三) 求償に関する特約の有無

右(一)及び(二)に認定した各事実に、〈書証番号略〉(念書)並びに右各本人尋問の結果を総合すると、右(二)のとおり原告黒澤が被告新藤の求めによってその所有する原告佐藤所有の共同住宅の右敷地の担保提供を承諾した後の昭和五六年一月八日、原告黒澤の自宅において、原告らと被告新藤が求償に関する本件特約を締結したことが認められ、この認定に反する右証人新藤の供述は、右(一)及び(二)の各認定事実並びに右各証拠に照らして不合理なものであり、信用することができない。

3  請求原因6(被告銀行の代位弁済)について

請求原因6の事実は当事者間に争いがない。

4  本件各保証契約に基づく原告らの法的地位

右1ないし3において認定した各事実によると、原告らは、求償に関する右特約に基づき、本件各保証債務を履行することにより、本件各土地に関する被告銀行の本件各担保権に対し、代位することのできる法的地位を有することになる。

二被告銀行の責任の有無

1  請求原因7(被告銀行の同農協に対する本件各土地の任意売却の依頼)について

請求原因7の事実中、被告農協が右各土地について約一〇〇〇万円の担保権を有していたことは争いがなく、証人藤浪、戸田良一(以下「証人戸田」という。)、小坂利作(以下「証人小坂」という。)及び右証人新藤の各証言並びに原告佐藤の本人尋問(第一回)の結果を総合すると、昭和五七年九月ころまでに訴外会社が事実上倒産した結果、債務の返済が滞るとともに病気入院を繰り返していた被告新藤に対する債権の回収方法を検討していた被告農協の担当者である内山課長は、右土地の任意売却によって右回収を図ることとし、被告新藤からその妻栄子(以下「栄子」という。)を介して同土地の処分に関する権限の委任を受けたうえ、昭和五八年二月ころ、被告銀行の担当者であった藤浪次長に対し、被告農協としての右の意向を伝え、それ以降、右各担当者間において、被告銀行の本件各担保権の解除の代償として同被告が受領するべき金額の多寡について折衝が行われることとなったことが認められ、この認定に反する特段の証拠はない。

2  請求原因9(被告銀行の責任)(一)(保証契約上の義務違反)について

(一) 同(1)(被告銀行の保証契約上の義務)について

(1) 同ア(求償に関する特約等の認識)について

請求原因9(一)(1)アの事実中、被告銀行の担当者が求償に関する本件特約を認識していたとの点については、これを認めるに足りる的確な証拠がなく、また、〈書証番号略〉(貸借対照表)、〈書証番号略〉(損益計算書)及び〈書証番号略〉(損失金処理計算書)並びに右証人新藤、証人舟山、高橋の各証言及び原告佐藤の本人尋問(第一、二回)の結果を総合すると、本件各借入及び各保証契約締結の当時、訴外会社が、設立間もなく、業績を上げるに至っていなかったことは認められるが、同社は資本金として二七五〇万円の資金及び教習所用地等の独自の資産を有する株式会社であったことは右2(一)に認定したとおりであるので、右借入においては、同社が名実ともに主たる債務者としての地位にあったものというべきであるから、右のいずれの点においても右アの主張は理由がない。

(2) 請求原因9(一)(1)イ(権利行使の方法に関する特約)について

原告佐藤(第一回)の供述中には、請求原因9(一)(1)イ①(明示の合意)の主張に副う部分があるが、これは、証人藤浪の反対趣旨の供述及び右2(二)の認定のとおり、被告銀行との間で連帯保証契約を締結した原告ら(原告黒澤については物上保証人としての責任もある。)に対し、同被告の支店長の地位にある担当者が、軽率にも同被告の債権確保のための権利の行使を制約する内容の右主張に係る特約を締結することは通常考えにくく、また、同被告又は奥山支店長として右特約の締結に応じざるを得ない特段の事情が本件において認められないことに照らし、右原告の供述を信用することはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、同②(黙示の合意)の主張については、その主張に係る具体的事実が仮に認められたとしても、それだけによって右同旨の特約が黙示に成立したものと判断することはできないので、失当を免れない。

(3) 請求原因9(一)(1)ウ(本件各土地の評価)について

証人藤浪の証言によると、奥山支店長は、昭和五六年二月ないし三月の本件各保証契約等の締結に際し、本件各土地の担保価値を三〇〇〇万円弱と評価していたことが認められ、右認定に反する原告佐藤(第一回)の供述は、客観的な根拠に欠けるものといわざるを得ず、右証言に照らしても、信用することができない。

(二) 被告銀行の保証契約上の責任の有無

右(一)に認定した各事実に基づいて検討するに、被告新藤が本件各借入における実質的な債務者としての地位になく、被告銀行の担当者において求償に関する本件特約の存在を知悉しておらず、また、被告銀行の原告らに対する権利行使を制約する特約の存在しない本件において、仮に、請求原因9(一)(2)(同被告職員の義務違反)のとおりの担当者の軽率な判断により、右土地の同被告としての本件各保証契約締結当時の評価額及び被告農協による実際の売却価格を下回る代償金の受領と引換に、本件各担保権の解除に応じたとしても、被告銀行として、原告らに対して右評価額による右土地の処分を約したものではない以上、本来無条件に本件各求償債務全額の履行を請求し得るはずの連帯保証人としての原告らに対し、原告らが同(二)で主張する被告銀行の担保保存義務違反とは別に、保証契約における債権者としての義務に違反したとして、債務不履行(不完全履行)の責を問われるものとは解されない。

(三) まとめ

したがって、右被告の右契約上の義務違反を理由とする原告らの第一次的請求は失当を免れない。

3  担保保存義務違反の有無

(一) 請求原因9(二)(担保保存義務違反)について

(1) 担保減少行為の有無

請求原因9(二)の事実中、右被告の担当者であった藤浪次長が、被告農協の担当者であった戸田課長の申入により、昭和五八年一〇月二八日、二五五〇万円の代償金の受領と引換に本件各担保権の解除に応じたことは、当事者間に争いがない。

そして、〈書証番号略〉(農用地利用増進計画)、〈書証番号略〉(農地法三条の規定による許可申請書)、〈書証番号略〉(求報告の申立書(写))、〈書証番号略〉(照会書(写))、〈書証番号略〉(回答書(写))及び〈書証番号略〉並びに証人戸田の証言及び原告佐藤の本人尋問(第一回)の結果を総合すると、被告新藤の委任を受けた被告農協の戸田課長が、第一回売買対象地及び四七九番の土地を同年一二月二〇日に農地公社に対して三一五一万五〇〇〇円(第一回売買対象地については二九七八万二五〇〇円相当)で、第二回売買対象地を同月三〇日に隆一に対して一八〇〇万円でそれぞれ売却する旨の合意に至ったことが認められる。この点に関し、証人戸田は、隆一に対する右売却価格は、同人の租税負担の対策上、時価より高額なものとなった旨供述するが、これは、主として伝聞及び推測に基づくものであって、その内容自体の合理性にも疑問があるため、直ちに信用することができず、他に、右各価格が時価以上のものであったことを認めるに足りる証拠はないので、右の各売却が被告銀行による右担保権の解除後二か月前後で行われたことに照らし、右価格をもって右各土地の同解除当時の時価に相当するものと認定するのが相当である。

ところで、〈書証番号略〉によると、被告農協は第一回売買対象地及び四七九番の土地の右売却当時、被告新藤に対して一九八四万五五八五円の債権を有していたことが認められるところ、右〈書証番号略〉並びに証人藤浪、戸田及び右証人新藤の各証言によると、被告農協は、本件各土地中の(11)、(12)及び(14)の各土地については、本件各担保権に優先するいずれも元本極度額五〇〇万円、遅延損害金日歩五銭の二個の根抵当権を、本件各土地中の(2)、(4)、(5)及び(7)ないし(10)の各土地については、右同様の一個の根抵当権をそれぞれ共同担保として有していたことが認められるので、被告農協が、右の被担保債権額の合計一一八二万五〇〇〇円を右売却価格の全体から優先して取得するべき旨を主張したとしても、それを右価格(四七九番の土地について右根抵当権に優先する担保権が設定されていたとする主張及び立証はない。)から控除した三七六八万円(右土地の代金相当額は一七三万二五〇〇円となる。)が、(14)及び(15)の各土地を除く本件各土地の右当時における担保価値であると認めることができる。

したがって、同価値を下回る右代償金の受領と引換に本件各担保権の解除に応じた藤浪次長の右行為は、同担保の減少行為に該当するものというべきである。

(2) 藤浪次長の過失の有無

証人藤浪及び小坂の各証言並びに原告佐藤の本人尋問(第一、二回)の結果を総合すると、藤浪次長は、右解除に際し、本件各土地の任意売却価格が反当たり一五〇ないし一八〇万円であって総額で約三五〇〇万円となる旨の戸田課長の説明を信頼する余り、その根拠の開示の要請並びに裏付資料の収集及び確認を行わず、右解除に利害関係を有し、かつ、右価格について知識を有することが予想される原告らの了承は固より、意見聴取すらなしに、右認定の被告銀行としての本件各土地の担保価値の評価額を五〇〇万円弱下回る代償金の受領によって右解除に応じたことが認められる。この認定に反する証人戸田の供述は右各証拠に照らして信用することができない。なお、右次長が、右解除について、訴外会社の解散後の清算人であった平井和夫弁護士の同意を得なかったとの点については、〈書証番号略〉(同弁護士の回答書)中にこれに副う記載があり、原告佐藤本人(第二回)も同旨の供述をするが、これらは、反対趣旨の証人藤浪の証言及び右弁護士が右解除に際して作成した〈書証番号略〉((根)抵当権一部解除申込書兼念書)の記載に照らし、直ちに信用することが出来ず、他に右の点の事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、一般に、担保の喪失又は減少行為における過失とは、その行為自体について問われるものであり、保証人等の代位権者が不利益を被ることについての予見可能性までは必要とされないものと解されるので、右認定の事実に照らし、藤浪次長は右担保減少行為について過失の責を免れないものというべきである。

(3) 被告銀行の抗弁1(同被告職員の無過失)について

被告銀行の抗弁1の事実中、藤浪次長が戸田課長の申入に係る右代償金額について同被告米沢支店の職員とも協議して概ね妥当な金額と判断したことは当事者間に争いがないが、同次長の認識していた本件各土地の担保価値が三〇〇〇万円弱であったことは右2(一)(3)に認定したとおりである。

これらの事実によると、右次長がした右金額の妥当性の確認手段は右職員との協議以外にはなく、右(2)において認定した事実に照らし、その協議を行ったことだけをもって同次長のした右行為について過失がなかったとすることはできない。

(4) まとめ

一般に、保証人間等における求償に関する特約は、債権者を含む第三者に対してもその効力を有するものであるので、保証人等の代位権者は、同特約によって代位するべき担保権の喪失又は減少についても、同特約に関する債権者の認識又は承諾の有無を問わずに、その保存義務違反の責任を問うことができると解されるから、右2(一)(1)の認定のとおり求償に関する本件特約の存在を被告銀行の担当者において認識していなかった本件においても、右(1)ないし(3)の認定及び判断のとおり、原告らは、同被告の履行補助者としての右次長の過失に基づく本件各担保権の減少行為について、同被告の責任を追及することができるものというべきである。

(二) 被告銀行の抗弁2(担保保存義務免除の特約)について

被告銀行の抗弁2の事実は当事者間に争いがない。

(三) 被告銀行に対する再抗弁(本件免除特約の主張の不当性)について

藤浪次長のした右担保権の減少行為について、同次長に過失が認められることは、右(一)(2)及び(3)に述べたとおりであるが、請求原因9(一)(1)記載の事実に関する認定は右(一)(1)のとおりであるので、被告銀行は、原告らに対する本件保証債務の履行請求権の行使に関して特段の合意をしておらず、また、その担当者において求償に関する本件特約の存在を認識していなかった(ちなみに、この結果、被告銀行の担当者としては、原告ら及び被告新藤並びに木村の四名の保証人の負担割合は平等であると認識していたことになるところ、〈書証番号略〉(いずれも代位弁済受領証)によると、右次長による右担保権の解除の時点における本件各求償債務の残額は、合計六三七五万七〇四二円であったことが認められるので、被告銀行が同新藤所有の本件各土地についての右担保権から回収した結果となる右代償金額は、右残額の四分の一を上回ることとなる。)ところ、当初、その担保価値を三〇〇〇万円弱と評価していた右土地の右担保権について、右認定のとおり二五五〇万円の代償金の受領と引換にこれを解除したものであり、右次長として、その解除に先立ち、右土地の時価を三五〇〇万円とする戸田課長の説明について、十分なものとは評し得ないとしても、被告銀行の米沢支店の職員に右土地の評価を確認したものであるうえ、右解除が、被告農協による右土地の現実の任意売却が行われる前に、少なくとも右次長の認識としては、その実際に売却する際の価格の多寡に関する危険を同被告が負担する形態で、早期かつ確実に右土地の担保価値を回収する方策であったことを考慮すると、右次長のした右解除に重大な過失があったとまで認めることはできない。

したがって、被告銀行が本件において本件免除特約の効力を主張することが、信義則に反し、あるいは、権利の濫用であるとは解されない。

(四) まとめ

右に述べたとおりであるので、右被告の担保保存義務違反を理由とする原告らの第二次的請求も失当である。

4  不法行為責任の有無

請求原因9(一)(1)の各事実についての認定が右2(一)(1)のとおりであり、かつ、本件免除特約の存在及び有効性が右3(二)及び(三)に認定及び判断したとおり認められる本件において、藤浪次長のした右担保権の解除が連帯保証人としての原告らに対する不法行為を構成するまでの違法性を有するものとは解されないので、右次長の不法行為による被告銀行の使用者責任を理由とする原告らの第三次的請求もまた失当を免れない。

三結び

右二1(三)、2(四)及び3に述べたとおりであるので、原告らの被告銀行に対する各請求は、全て失当である。

第二被告農協に対する各請求について

一原告らの保証契約上の権利

1  請求原因1について

〈書証番号略〉及び原告らと被告農協との間(以下、第二において「当事者間」という。)において成立に争いのない前掲〈書証番号略〉並びに原告佐藤の本人尋問(第一回)の結果によると、請求原因1の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

2  請求原因2について

右〈書証番号略〉及び請求原因2の事実を被告銀行において自白するなどの弁論の全趣旨によると、同事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

3  請求原因3について

〈書証番号略〉並びに前掲証人新藤の証言及び原告佐藤(第一、二回)、同黒澤の各本人尋問の結果を総合すると、請求原因3の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

4  請求原因4について

〈書証番号略〉並びに証人藤浪、右証人新藤の各証言及び原告佐藤(第一回)、同黒澤の各本人尋問の結果を総合すると請求原因4の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

5  請求原因5について

請求原因5の事実についての認定は、右第一の一において述べたとおりである(〈書証番号略〉)。

6  請求原因6について

〈書証番号略〉(領収証)、〈書証番号略〉(振込金受取書)並びに被告銀行において請求原因6の事実を自白するなどの弁論の全趣旨を総合すると、同事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

7  本件各保証契約に基づく原告らの権利

右1ないし6において認定した各事実によると、原告らは、本件各担保権について、右第一の一4に述べたとおりの権利を有していたことになる。

二被告農協の責任

1  請求原因7について

請求原因7の事実中、被告農協が、本件各土地について元本極度額合計一〇〇〇万円の根抵当権を有し、かつ、被告新藤から同土地の処分に関する権限を委任されていたことは当事者間に争いがなく、その余の点に関する認定は、右第一の二1のとおりである。

2  被告銀行と同農協の担当者間の交渉の経過

(一) 当初の交渉内容

被告農協の主張1(被告銀行職員との十分な協議)(一)(交渉の経過)(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二) 交渉の妥結

請求原因8(被告農協の責任)(一)(被告農協職員の不法行為)(1)(詐欺による担保権の解除)の事実中、本件各土地の任意売却を担当していた戸田課長が、藤浪次長に対し、昭和五八年九月中旬ころ、同土地の価値を約三五〇〇万円と評価したうえ、本件各担保権に優先する被告農協の根抵当権の元本極度額一〇〇〇万円を控除した二五〇〇万円を被告銀行に分配したい旨を申し入れ、同月下旬ころ、同金額に被告農協の譲歩分として五〇万円を加えた二五五〇万円の代償金の同被告から同銀行への支払と引換に、同被告に、右土地全部について、本件各担保権を解除する旨の合意を成立させ、同年一〇月三一日、その各設定登記の抹消をさせたこと及び被告農協の主張1(一)(2)の事実中、戸田課長及び小坂部長の説明に係る右土地の価格が競売手続に付された場合のものであることを除く点については、いずれも当事者間に争いがない。

(三) その間の交渉経過

(1) 戸田課長らの認識

ア 売却予定者の存在

〈書証番号略〉(それぞれ鈴木及び株式会社太田土建代表者作成の各証明書)並びに証人小坂の証言及び右尋問の結果を総合すると、鈴木は、被告農協の宅地造成事業のために田約五反歩の買収に応じたことから、昭和五七年四月までに、隆一は、置賜トラック協会の建設用地として農地の買収に応じたために、右太田土建を介して昭和五八年四月までに、いずれも同被告に対し、代替の農地の取得を希望し、その斡旋を依頼しており、被告農協の担当者は、その後、同年九月末日ころ、鈴木に右代替農地として本件各土地の一部の売却を斡旋し、その代金を反当たり二五〇万円とすることで同人の内諾を得ていたことが認められ、この認定に反する証人戸田の供述は右各証拠に照らして信用することができない。

イ 仮払による代償金の捻出

証人戸田、小坂及び金田八良(以下「証人金田」という。)の各証言を総合すると、戸田課長は、右(二)に認定した代償金二五五〇万円を、右1に認定したとおり、既に、その経営に係る訴外会社が事実上倒産し、被告農協に対する債務の返済が滞った状態にあり、かつ、病気による入院を繰り返していた被告新藤に対する仮払として、同被告の内部において処理したうえで捻出し、更に、その処理について同被告の組合長の決裁を得るなどの適切な手続きを経ず、殆ど右課長の独断によってその被告銀行に対する支払を実行したものであり、また、このように、事実上の倒産状態にある債務者に対する第三者の担保権の解除のために、同債務者への高額の仮払をした取扱は、右被告において従前皆無であったことが認められ、この認定に反する特段の証拠はない。

ウ 第一回及び第二回売買対象地等の売却

請求原因10(原告らの損害)(一)(損害及びその額)(3)(原告らの損害額)の事実中、第一回売買対象地及び四七九番の土地が昭和五八年一二月二〇日に農地公杜に対して代金三一五一万五〇〇〇円で売却されたこと及び第二回売買対象地が隆一に対して代金一八〇〇万円で売却されたことは当事者間に争いがなく、隆一と被告新藤との間で同土地を右代金額で売買する旨の合意が同月三〇日に成立したことは〈書証番号略〉並びにこの点を被告農協において自認するなどの弁論の全趣旨から明らかである。

そして、〈書証番号略〉、証人戸田の証言並びに米沢市農業委員会に対する調査嘱託の結果を総合すると、戸田課長は、右認定の第一回売買対象地及び四七九番の土地の売却に先立ち、同年一〇月一五日に右委員会に対して農用地利用増進法六条一項に基づく農用地利用増進計画による右土地の農地公社の買取のための審査を求める申出を栄子にさせ、右(二)の認定のとおり同月二八日に被告銀行に右代償金を支払って本件各担保権の解除を受け、同年一一月一〇日に右土地の同公社による買取を行う旨の右計画が正式に決定された後、右認定のとおり同年一二月二〇日に右土地の同公社への売却が実施されたものであり、その売却代金は、入院中の被告新藤に代わって手続きを行った栄子が戸田課長の指導に応じて右委員会に申し出た反当たり二五〇万円の売却希望価格のとおり決定されたこと、更に、第二回売買対象地については、右売却の一〇日後である同月三〇日に買主の隆一との間で反当り三〇〇万円の価格によって売却する旨の合意が成立したこと、そして、第一回売買対象地及び四七九番の土地については、昭和五九年五月三一日に、右公社から鈴木及び安部に対して転売されたことがそれぞれ認められ、これらの認定に反する特段の証拠はない。

エ まとめ

右アないしウにおいて認定した各事実に基づいて検討するに、被告農協として、第一回及び第二回の各売買対象地等を実際に買い受けることとなった鈴木及び隆一からそれぞれ昭和五七年及び昭和五八年の各四月までに代替農地の売却のための斡旋を依頼されていたこと、右各土地、特に第一回売買対象地及び四七九番の土地については、同土地の一部を反当り二五〇万円で売却する旨の意向を昭和五八年九月末ころの時点で被告農協の担当者が鈴木に伝えたうえ、売却に向けての手続が、藤浪次長との間で右代償金額が実質的に合意された後の僅か半月余で開始され、その売却価格である反当り二五〇万円の決定については栄子に対する戸田課長らの指導によって同額での売却が申し出られ、結局そのままの価格が右公社による買取価格とされたこと、被告銀行に対する右代償金の支払は、右手続が実際に進行中の同年一〇月二八日に、戸田課長の独断による既に倒産状態にある被告新藤に対する被告農協の組合長の決裁をも得ず、しかも、本件各土地の売却価格によっては、その回収が危ぶまれる仮払という通常は考えられない極めて拙速かつ緊急な処理によって敢えて行われたこと、更に、第二回売買対象地についても、第一回売買対象地等の右公社への売却が実施された僅か一〇日後の同年一二月三〇日に反当り三〇〇万円の価格で売却する旨の合意が隆一との間で成立したことを指摘することができ、これらの点に徴すると、戸田課長は右次長と右代償金額について交渉し、それについて実質的に合意に達した同年九月中旬ないし下旬の時点において、右各土地が少なくとも反当り二五〇万円で売却できるとのほぼ確実な見通しを有していたものと推認するのが相当であり、この推認に反する証人戸田、金田及び小坂の各供述は、右アないしウにおける認定及び右に述べたところに照らして不合理なものといわざるを得ず、いずれも信用することができない。

また、被告農協の主張3(本件各土地の売却の経過)(一)(第一回売買対象地等について)の事実中、同土地の代金額が実施規程に基づいて決定されたことは当事者間に争いがないが、この事実だけでは右推認を何ら左右するものとはいえず、また、その決定に被告農協が関与しなかったことを認めるに足りる的確な証拠はなく、却って、売主である被告新藤としての売却希望価格の申出が戸田課長の指導に基づくものであったことは右ウに認定したとおりである。

更に、同主張3(二)(第二回売主対象地について)の事実については、証人戸田がこれに副う供述をするが、これは、主として伝聞及び推測に基づくものであるうえ、その内容においても合理性及び具体的な裏付を欠くものであって、それだけによって右事実を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 藤浪次長の認識等

証人藤浪及び小坂の各証言並びに右(二)における認定を総合すると、藤浪次長は、昭和五八年九月中旬ころ、右(1)エに認定した本件各土地の相当部分を少なくとも反当り約二五〇万円で売却できるほぼ確実な見通しを戸田課長が有していたことは全く認識せず、右土地の任意売却の価格が反当り一五〇ないし一八〇万円であるので、同土地全体で約三五〇〇万円に止まる旨の右課長の説明を信頼し、これを前提にその相当性を被告銀行の米沢支店の職員に確認するなどしたうえ、同月下旬ころ、二五五〇万円の代償金の受領と引換に本件各担保権の解除に応じる旨を実質的に右課長と合意し、これに基づいて、同年一〇月三一日までに右代償金額を受領して右解除を実行するとともに、その各設定登記を抹消する手続をしたことが認められる。

右の点に関し、被告農協は、右課長の説明における反当たり一五〇ないし一八〇万円との価格が、右土地が競売手続に付された場合のものとして説明した旨主張し、証人戸田が同旨の供述をするが、その供述は、右各証言に照らして直ちに信用し難いうえ、右両者間の協議が競売手続を回避して右土地を任意売却する場合の代償金額の決定に関するものであったことに照らしても合理性に欠け、信用することができない。

3  戸田課長らの行為の違法性

右2(二)並びに(三)(1)エ及び(2)において認定した各事実に基づいて検討するに、戸田課長は、被告農協の担当者として、本件各土地に対する根抵当権を実行することなく、同土地を任意売却することによって被告新藤に対する債権の回収を図るに当たり、同土地に本件各担保権を有する被告銀行の担当者である藤浪次長と交渉し、一定の代償金の支払と引換に同担保権の解除を求め、同土地の任意売却を円滑に進めようと考えていたものであるから、右課長として、右次長に対し、同土地の売却価格の見通しなどについて、真実を開示したうえで、被告農協としての右債権回収の必要性及び同土地を競売手続に付する場合に比して高価格による任意売却を被告農協の労において実現させることを強調し、右代償金について相当額の譲歩を求めるのであれば格別、右課長において、右土地の売却の実現及びその価格等に関する見通しなどの重要な事実を一切秘匿したばかりか、その価格が反当り一五〇ないし一八〇万円であるとして、右土地全体で約三五〇〇万円に止まる旨の実際に予想される売却価格に反する虚偽の事実を右次長に告げて、同人に譲歩を迫った右交渉における右課長の言辞は、被告農協と同銀行との間の右交渉において、取引上許容される駆引を超えた欺罔行為に該当する違法なものであったというほかはなく、右課長の言辞を真実であると誤信した右次長の錯誤に基づく右担保権の解除は詐欺によるものといわざるを得ない。

この点に関する被告農協の主張1(二)(詐欺行為の不存在)は前提となる事実を異にするものとして、また、同2(被告農協職員行為の許容性)は右に述べたところに照らし、いずれも失当を免れない。

4  請求原因8(二)(被告農協の使用者責任)について

請求原因8(二)の事実は当事者間に争いがない。

5  まとめ

右3及び4における判断及び認定のとおりであるので、右課長との交渉における言辞及びそれに基づく右担保権の解除は詐欺に該当するものとして不法行為を構成し、被告農協が右課長の使用者としてその責任を負うべきである。

三原告らの損害

1  被告農協の損害賠償義務

証人戸田の証言によると、請求原因10(二)(被告農協及び同銀行の損害賠償義務)(1)(被告農協について)ア(原告らの保証債務に対する認識)のとおり、同被告の担当者としての戸田課長が、右認定の欺罔行為を行った藤浪次長との交渉に際し、原告らの被告銀行に対する本件各保証債務の負担の事実を知っていたものと認められるうえ、そもそも、訴外会社の同被告に対する本件各求償債務を被告新藤が物上保証するという銀行取引においては、他に保証人が存在することは右課長として通常の事態として予見するべきであり、右欺罔行為により、本件各土地の実際の担保価値を下回る額の代償金によって本件各担保権を被告銀行に解除させた右課長として、訴外会社が倒産状態にあることを認識していたことは右二1に認定したとおりであるので、右の下回った差額分が保証人としての原告らの実際の負担を増大させる結果を生じさせることもまた当然の帰結であるので、右負担の増大として原告らに生じた損害は、右課長の不法行為によって通常生ずるべき損害の範囲に含まれるものというべきである。

2  原告らの損害及びその額

(一) 請求原因10(一)(2)(訴外会社及び被告新藤の無資力)について

請求原因10(一)(2)の事実は、右二1に認定した訴外会社が昭和五七年九月ころまでに倒産した事実並びに〈書証番号略〉((根)抵当権一部解除証書)及び右証人新藤の証言から明らかである。

(二) 戸田課長の不法行為による原告らの負担の増大額

(1) 第一回及び第二回売買対象地等の価値

第一回売買対象地及び四七九番の土地並びに第二回売買対象地がいずれも本件各担保権が解除された後二か月前後でそれぞれ三一五一万五〇〇〇円(四七九番の土地については一七三万二五〇〇円相当)及び一八〇〇万円で売却されたこと並びに後者の売却価格が当時の時価以上の高額で合意されたものと認められないことは、いずれも右二2(三)ウにおいて認定したとおりであるので、戸田課長の不法行為の時点における右各土地の時価は右金額のとおりであったものと認定するのが相当である。

(2) 本件各土地中の残地の価値

〈書証番号略〉並びに証人戸田及び右証人新藤の各証言によると、本件各土地中の(14)の土地には被告新藤の親族である青木廣雄の所有権移転請求権仮登記が経由されており、同(15)の土地は面積が僅少であるために、いずれも現在に至るまで被告農協の主導による売却が実現していないことが認められるが、〈書証番号略〉によると、右仮登記は、本件各担保権及び被告農協の根抵当権にいずれも劣後するものであることが明らかであるので、右(15)の土地とともに、被告銀行及び同農協による担保権の実行の障害となるものではないので、少なくとも、右各土地とも、右不法行為の時点において、〈書証番号略〉(入札及び競落期日広告(写))、〈書証番号略〉(いずれも期間入札の通知書(写))並びに証人戸田の証言によって認められる担保権の実行による場合のその当時の最低限の価格である反当り一五〇万円の価値を有していたものと認定するのが相当であるので、右各土地の時価の合計は、四〇六万五五八一円となる。

(3) 被告農協の優先担保権の価額

被告農協が本件各土地の一部について本件各担保権に優先する元本極度額合計一〇〇〇万円の根抵当権を有していたことは当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉によると、その共同根抵当権の登記された遅延損害金がいずれも日歩五銭であり、また、右被告が右不法行為当時に被告新藤に対して一九八四万五五八五円の債権を有していたことが明らかであるところ、右認定の被告農協と同銀行との右土地の任意売却のための交渉の経過及び内容に照らして、被告農協として右根抵当権の被担保債権額はその売却代金から優先して弁済を受領することが許される立場にあったものというべきであるので、同被告は同被担保債権額である一一八二万五〇〇〇円について優先的な権利を有することになる。

(4) まとめ

右(1)ないし(3)に認定した各事実によると、被告農協は、右不法行為時における本件各土地及び四七九番の土地の時価合計額である五三五八万〇五八一円から、同被告が優先権を有する一一八二万五〇〇〇円及び被告銀行に支払った代償金額である二五五〇万円を控除した一六二五万五五八一円に相当する利益を右不法行為によって取得し、その反面として、原告らの本件各保証債務に基づく実際の負担が同額に相当する分増大したことになる。

(三) 原告らの損害額

請求原因10(一)(1)(本件各保証債務の残額)の事実については、被告銀行においてその事実を明らかに争わないなどの弁論の全趣旨から明らかであるところ、右第一の二3(四)のとおり、被告銀行に担保保存義務違反の責任が成立しないことにより、原告らは、現時点において右認定の金額の本件各保証債務の残額を負担し、右被告からその即時の履行を求められる立場にあり、その金額が右(二)(4)において認定した戸田課長の右不法行為による原告らの保証債務の増大額を上回るものであるので、原告らは、合計して同額に相当する損害を被ったものというべきである。

なお、原告らは、被告農協の不法な利得額のほかに、その金額に対する訴外会社の被告銀行との間における約定の遅延損害金をも右不法行為による損害金として請求するものであるが、原告らが同遅延損害金を負担することになるのは、原告らが、右被告に対して連帯保証債務を負担しているにも拘らず、自己らの判断又は都合によって同債務の履行を遅滞しているためであるというべきであるので、右遅延損害金に相当する原告らの負担の増大は、右不法行為と相当因果関係のある損害とみとめることはできない。

そして、〈書証番号略〉(連帯保証免除依頼書)、〈書証番号略〉並びに右原告本人尋問の結果によると、本件各求償債務についての保証人は、原告らの求償に関する本件特約の相手方である被告新藤以外には、現時点では原告らだけであることが認められ、原告らはいずれも連帯保証人として被告銀行から各自が右保証債務残額の全てについて履行を求められる立場にはあるが、原告ら相互間においては、最終的な保証責任の負担者を特別に合意した旨の主張及び立証がないので、最終的には原告ら各自が平分してその責任を負担するものというべきであるから、原告らに生じた損害は、各自について、右認定の保証債務の増大額の二分の一ずつに止まるものというべきである。

四結び

以上のとおりであるので、原告らは、被告農協に対し、戸田課長の右不法行為の使用者責任に基づく損害金として、各自、八一二万七七九〇円の支払を求める権利がある。

なお、原告らは、右被告に対する各請求において、右損害金に対する遅延損害金の支払を求めていないことが明らかであるので、同遅延損害金については認容の限りではない。

第三被告新藤に対する請求について

一請求原因1、2及び4について

請求原因1、2及び4の各事実については、原告佐藤と被告新藤との間(以下、第三において「当事者間」という。)に争いがない。

二請求原因5について

請求原因5の事実が認められることは、右第一の一2における認定のとおりである(〈書証番号略〉)。

三請求原因11(被告新藤に対する求償権)について

請求原因11の事実について判断するに、〈書証番号略〉(証書貸付ご返済予定明細表(写))並びに証人高橋の証言によると、訴外会社が本件各借入金債務の履行を遅滞したので、原告佐藤が、その弁済資金に充てるため、昭和五六年八月一日、被告銀行から一〇〇〇万円を借り受けたことが認められるが、〈書証番号略〉(念書の写)並びに前掲証人新藤、証人舟山、高橋の各証言及び原告佐藤の本人尋問(第二回)の結果を総合すると、右の借入金は、被告銀行に対する保証人としての原告佐藤から、直接に同被告又は日新火災若しくは金融公庫への弁済に充てられたものではなく、むしろ、右原告が、訴外会社の取締役としての立場から、個人として、右弁済資金に充てるべく訴外会社に貸し渡したうえで、同社から右の債権者への弁済が行われたものと認められ、この認定に反する特段の証拠はない。

四まとめ

右三に認定した事実によれば、右原告による一〇〇〇万円の出捐は、自己の右被告に対する保証債務の履行としてではなく、訴外会社に対する貸付としてされたことになるので、右二に認定した求償に関する本件特約に基づく求償権の対象には該当しないものといわざるを得ない。

五結び

右四に述べたとおりであるので、右原告の右被告に対する請求は失当を免れない。

第四結論

右第一の三、第二の四及び第三の五のとおりであるので、原告らの被告農協に対する各請求は、各自について、損害金八一二万七七九〇円の支払を求める限度で理由があるから、これらを認容し、その余の部分及び原告らの被告銀行に対する各請求並びに原告佐藤の被告新藤に対する請求はいずれも失当であるから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条並びに九二条及び九三条一項の各本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項及び四項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官髙橋徹)

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